ハネカクシは甲虫の仲間で、世界から6万6千種が知られる動物界最大の科として知られています。大部分の種は飛翔するための後翅を複雑に折り畳んで収納することから、ハネカクシという和名が付けられています。私はこのハネカクシを用いて、主に分類学・系統学的・古生物学的観点から研究を行っています。

主要研究


甲虫目ハネカクシ上科を主とした古生物学的研究

いわゆる化石の研究になります。既に絶滅している分類群の研究を通じて、現生種との形態比較や進化的傾向を探ります。これらの研究では植物樹脂が化石化した琥珀中の昆虫化石を用いた陸域生物相の復元を行っており、個々の分類群で大きな知見が得られています。

 

これまで甲虫目を中心とする様々な分類群で研究成果を発表してきました。特に自身が専門とするハネカクシ上科では積極的に研究を進めています。例えば、メダカオオキバハネカクシ亜科やイトヒゲニセマキムシ亜科 (いずれもハネカクシ科) で初めてとなる化石を発表しています。また、最古の化石としてヒゲブトハネカクシ亜科 (ハネカクシ科)・ヤコブソンムシ科に関する論文が掲載されました。さらに、琥珀中として最古の化石となるシリホソハネカクシ亜科 (ハネカクシ科) ならびにオオキバハネカクシ亜科 (ハネカクシ科) を見出し、論文で発表しました。また、同じくダルマガムシ科の琥珀中として初となる化石も発見しています。

 

 

また、ハネカクシ上科以外の化石の研究としては、世界最小のクワガタムシや後脚が顕著に肥大化したエンマムシなどがあります。

 

副研究1


クワガタムシの分類学的研究

日本人にとってとりわけ馴染みの深い昆虫にクワガタムシがあります。クワガタムシ科は甲虫目のコガネムシ上科に属する一群で、世界から1500種以上が知られています。

 

しかし、人気の高い昆虫にもかかわらず、実際にはまだまだ未記載種 (新種) や国レベルでの未記録種が眠っています。とりわけ課題が多い東南アジア諸国について、それぞれの国の現地研究者と協力して、地道に分類学的研究を行っていきます。これまでに発表した新種としては、インドネシアのジャワ島から命名記載したソリアシサビクワガタの一種「Gnaphaloryx rectus Yamamoto, 2022」があります。クワガタは進化生態学的にも重要な分類群ですが、インベントリー調査や環境評価の指標としての重要な役割も期待されます。

 

副研究2


ハネカクシの分類学的研究

ヒゲブトハネカクシ亜科は1万7千種を擁する動物界最大の亜科として知られています。主に日本産本亜科に関する分類学的研究を行っています。これまで、ハエ類を捕食寄生し農作物の生物防除への応用が期待されるヒゲブトハネカクシ属Aleocharaを主とした分類学的研究を行ってきました。大きな成果としては、これまで別属として扱われてきたチビシリアゲハネカクシ属TinotusAleocharaの亜属へ格下げしたことが挙げられます。この処置により、ハネカクシ科でハエ類を捕食寄生する属はヒゲブトハネカクシ属のみになりました。ヒゲブトハネカクシ亜科の研究と並行して、シリホソハネカクシ亜科に関する種分類も行っています。

完了した主要な研究


シリホソハネカクシ亜科群の高次系統・分類

シリホソハネカクシ亜科群を構成する主要な亜科であるシリホソハネカクシ亜科は亜科としての単系統性が確立されておらず,その再検討が主な課題でした.Yamamoto (2021, Biology) により、シリホソハネカクシ亜科を狭義のシリホソハネカクシ亜科と新たに認めたキノコハネカクシ亜科の二つに分割することで決着しました。新たに定義したシリホソハネカクシ亜科内部の分類体系も大幅に再編し、目標であった高次分類体系仮説の提唱を行うことができました。

 

Yamamoto, S. (2021) Tachyporinae revisited: Phylogeny, evolution, and higher classification based on morphology, with recognition of a new rove beetle subfamily (Coleoptera: Staphylinidae). Biology, 10(4): 323. (doi: 10.3390/biology10040323). *無料でPDFダウンロードが可能です。